大津家庭裁判所 平成元年(少)1676号 決定 1989年11月20日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 平成元年8月19日午後11時55分ころ、公安委員会の運転免許を受けずに、滋賀県栗太郡○○町××番地付近道路において、第一種原動機付自転車を連転し
第2 同年9月17日午後3時ころ、同県草津市○○×丁目××番××号所在の○○商店街買物客専用駐車場において、A(当時15歳)に対し、手挙で同人の顔面を数回殴打するなどの暴行を加え、よって、同人に加療約1週間を要する顔面打撲の傷害を負わせ
第3 同日午後3時15分ころ、同市○○×丁目×番××号所在のJR○○駅東口前歩道上において、B(当時14歳)に対し、同人の頭髪をつかんで1回頭突きをしたうえ、腹部を1回膝蹴りし、さらに顔面を手拳で1回殴打するなどの暴行を加え
第4 同年10月7日午後3時ころ、Cと共謀のうえ、同市○○×丁目××番×号所在の○○市立○○中学校において、友人のDらが同中学校3年生のE(当時14歳)、F(当時15歳)及びG(当時14歳)に対して起こした傷害事件について、同人らが被害届を出さないように圧力を加えるため、右Eらにこもごも「お前ら下が上に殴られるのは当たり前やろう。」「お前ら警察ざたには絶対するなよ。もし警察ざたにしたらこれくらいでは済まさんぞ。行くところまで行ったるからな。」「もし警察に言うたらお前ら道歩かさんぞ。」などと申し向け、もって両名共同して脅迫し
第5 同月18日午後9時30分ころ、公安委員会の運転免許を受けずに、同市○○×丁目××地先市道において、第一種原動機付自転車を運転し
たものである。
(法令の適用)
第1及び第5につき いずれも道路交通法118条1項1号、64条
第2につき 刑法204条
第3につき 同法208条
第4につき 暴力行為等処罰ニ関スル法律1条(刑法222条1項)
(処遇の理由)
本件第2ないし第4の非行は、中学生二人に次々と暴行を加え、その一人に傷害を負わせたもの、また友人が起こした傷害事件に関し、年長少年とともに出身校に押し掛けて中学生三人に圧力を加えたもので、直接の契機は少年自身にはなく、後輩から助けを求められたり、先輩のトラブルを聞いたりしたことにあったとはいえ、結局は少年自ら被害者に対して腹を立て、無抵抗の同人らに暴行を加えた点で悪質であるし、少年の易怒的、爆発的な性格傾向や暴力に対する罪悪感の乏しさがうかがわれるのであって、これを軽視することはできない。また、本件第1及び第5の非行はいずれもバイクの無免許運転であるが、バイクへの強い関心を背景に、遊びや足代わりの手段として半ば常習的に無免許運転を繰り返しており、遵法精神、規範意識の欠如は明らかである。
少年は、中学生のころから不良集団を背景に問題行動や非行を発現させ、これまでにいずれも当庁において、昭和63年5月30日傷害罪により不処分、同年10月24日暴行罪により保護観察、同年12月12日窃盗罪により不開始(別件保護中)、平成元年9月22日強盗致傷幇助、窃盗罪により不処分(別件保護中)の各決定を受けているが、この間、生活改善が一向になされなかったばかりか、ほとんど就労を果たせないまま、ゲームセンターに入り浸り、素行不良少年と気ままに遊び回るなかで本件各非行に至っており、非行性は相当深化しているものと考えられる。そのうえ、少年は、同年8月30日に当庁において上記強盗致傷幇助、窃盗事件で担当調査官の面接を受けて間もなく本件第2、第3の非行を犯し、次いで同強盗致傷幇助、窃盗事件の審判の直後にさらに本件第4の非行に及んでいることに鑑みると、保護観察処分の意味をどれだけ自覚していたのか甚だ疑問であるし、また、大津少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書記載の「行動観察」欄からもうかがわれるように、現在においても少年が本件各非行の重大さを認識し、真摯に反省しているものとは認め難い。
少年の家庭は経済的には恵まれているものの、父は長男である少年に過剰な期待を抱き、少年の気持ちを受け入れることなく、一方的に要求を押し付け、これに逆らうならば力で支配しようとするなど、適切さを欠いた独善的な養育態度がある一方で、勝ち気、感情的になりやすく、少年を溺愛しがちな母との葛藤も深く、このような家庭環境のもと、私立中学校への進学に失敗したことを契機に、少年は、何ごとも自由にならなかった父に対する不満感情を父の期待を裏切ることで晴らそうとの機制から、自己実現の場を不良交友の中に求め、急速に不良文化に親和し、ことに強い父への歪んだ同一視過程を通して、粗暴行為を主体とする非行を発現するに至ったものと考えられ、少年の家庭環境及び性格上の問題点は相当根深いといわざるを得ない。
以上によれば、もはや少年を社会内で処遇することは困難というべく(なお、父母は、少年の不良交友を断ち切るため、少年を韓国に留学させることを考えているのであるが、少年自身はこれを受け入れる気持ちがないうえ、少年の性格等を考えた場合、言語、風習の異なる他国での生活が少年に好結果を生むとは到底思われない。)、この際、少年を矯正施設に収容し、強力な枠組みのなかで自己の問題点に気付かせるとともに、未熟な性格の改善を図り、さらには健全な規範意識を植え付けるため、強力な働き掛けを行う必要があると思料される。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 飯塚宏)